ロイヤルカスタマー戦略に役立つ5つの分析手法とは?顧客育成の手順も解説
ロイヤルカスタマー戦略とは、企業が顧客と良好な関係を築き、顧客からの好意や信頼を得るための戦略です。しかし、ロイヤルカスタマー戦略をおこなう際に「ロイヤルカスタマーの育成方法が知りたい」「顧客ロイヤリティの分析方法が分からない」と悩む方も多いのではないでしょうか。
ロイヤルカスタマーは継続的に自社を利用する傾向が強く、育成すると将来的な収益の安定につながります。また、新規顧客を獲得するよりもコストを抑えながら、自社の成長を促す効果も期待できるでしょう。
この記事ではロイヤルカスタマー戦略に役立つ5つの分析手法と、顧客育成の手順について詳しく解説します。顧客管理に携わる方は、ぜひ参考にしてください。
目次
ロイヤルカスタマー戦略は、企業の売上アップに欠かせない
ロイヤルカスタマー戦略によってロイヤルカスタマーを育成すると、リピート率が向上し、企業の売上向上や収益の安定化につながります。
ロイヤルカスタマーとは、自社や自社の商品・サービスに対する好意や信頼が強い顧客です。商品・サービスに対する愛着が強いだけでなく、企業そのものに信頼を寄せるロイヤルカスタマーには、以下のような特徴があります。
- 継続的に自社を利用する
- 他社のオファーに乗りにくい
- 商品・サービスに思い入れがある
- 商品・サービスを他者にすすめる
利用が長期化しやすいロイヤルカスタマーは、収益安定に大きな影響を与える存在です。加えて、周囲に商品・サービスの魅力を発信する宣伝効果も期待できるでしょう。
このように、自社に信頼や好意を持ち、貢献度が高い行動をするロイヤルカスタマーを計画的に育成することを、「ロイヤルカスタマー戦略」と呼びます。
優良顧客とは、顧客全体の約2割を指す
「優良顧客」とは購入金額が高く、高頻度で店舗を利用する顧客です。経済学者ヴィルフレド・パレードが提唱した「パレードの法則」によると、顧客全体の上位2割が優良顧客であると定義づけられます。
ロイヤルカスタマーと優良顧客の違いは、企業やブランド、商品・サービスなどのファンであるかどうかです。ロイヤルカスタマーの多くは、値段や利便性以外に、好意や信頼などの要素で自社の利用を続けます。
一方で、優良顧客の場合、企業に対する思い入れを持っているとは限りません。「値段が安いから」「機能性が十分だから」といった理由で商品・サービスの購入を続けている人も優良顧客に含まれます。そのため、競合他社から魅力的な商品や便利なサービスが提供されると、移行してしまう可能性が否定できません。
このように、優良顧客とロイヤルカスタマーには、企業と顧客の関係性に対する大きな違いがあります。
ロイヤルカスタマーを育成するメリット
ロイヤルカスタマーを育成すると「コストを抑えながら自社の成長を促進できる」というメリットがあります。
会社経営における「1:5の法則」によると、新規顧客に商品・サービスを販売するには、既存顧客に販売する5倍のコストがかかるといわれています。そのため、既存顧客をロイヤルカスタマー化させて継続的な利用を促す方が、販促コストの削減につながるでしょう。
さらに、ロイヤルカスタマーによるSNSや口コミサイトでの好意的な意見の拡散により、新規顧客の獲得も期待できます。
このように、ロイヤルカスタマーは、売上の向上や安定、企業のイメージアップなどにおける重要な役割を果たしてくれるでしょう。
ロイヤルカスタマー戦略に役立つ5つの分析手法
ロイヤルカスタマー戦略で大切なのは、顧客満足度の向上です。定期的に顧客ロイヤリティの測定をおこない、達成度を把握しましょう。
ここでは、ロイヤルカスタマー戦略に役立つ、5つの分析手法を解説します。
分析手法その1:NPS調査
「NPS」とは「Net Promoter Score」の略で、顧客ロイヤルティを測る指標です。
NPS調査では、顧客に「この企業もしくは商品・サービスを、親しい友人や同僚にすすめる可能性はありますか」という質問を投げかけます。質問に対しては、10~0点で評価してもらいましょう。
- 10~9点→推奨者:商品・サービスに対する満足度やリピートの可能性が高い
- 8~7点→中立者:満足度は高くないが、特に不満もない。競合が優れていれば流れやすい。
- 6~0点→批判者:満足度が低く、リピートの可能性も乏しい
点数の範囲で顧客を3つのグループに分類し、推奨者の割合から批判者の割合を引いて数値を割り出します。
例えば、10人中6人が9点以上、2人が6点以下だった場合は、以下のような計算手順でNPSが算出できます。
- 推奨者の割合:60%=6÷10(人)
- 批判者の割合:20%=2÷10(人)
- NPSの算出:40=60-20
NPS調査に対する回答数が少ないと、算出した数値に誤差が出やすいため、統計学上の有意水準が満たせるサンプル数400以上を基準に集めましょう。
なお、NPS調査をおこなう際には、同時に定性調査をおこなうことをおすすめします。質問と同時にコメントを書いてもらうと、中立者や批判者の意見などがわかるため、ロイヤルカスタマー育成に生かせるでしょう。
分析手法その2:RFM分析
「RFM分析」とは最終購入日(Recency)、購入頻度(Frequency)、購入金額(Monetary)の、3指標を用いて顧客をグループに分ける分析手法です。
RFM分析は次の手順でおこないます。
- 自社の課題を明確化し、仮説を立てる。
- 顧客の購買データ(3指標)をそれぞれ収集・集計する。
- ツールを使い、指標別に「優良顧客」「安定顧客」などグループ分けをする。
- グループに合った施策を企画・実行する。
- 効果検証をおこなう。
分析によって各グループにおける顧客の分布が可視化されるため、自社の現状がわかりやすくなります。
例えばR、F、Mすべてが高い顧客は自社を積極的に利用しているため、優良顧客に分類できます。そして、このグループ内には、愛着を持って自社を利用するロイヤルカスタマーがいると推測できます。
このようにRFM分析では、数値を用いてロイヤルカスタマーの可能性が高い顧客や、今後育成できそうな顧客を分類できます。この結果をもとに、育成度合いに基づいたロイヤルカスタマー戦略を組み立てましょう。
ただし、RFM分析は、顧客が自社を利用する理由や商品を購入する動機などは分析できません。そのため、NPS調査を併せておこない、顧客分析の精度を高めましょう。
RFM分析をおこなう際には、下記テンプレートをご活用ください。
分析手法その3:CPM分析
「CPM (Customer Portfolio Management)分析」とは、購入回数や購入金額、利用期間といった指標によって、顧客を10グループに分けて分析する手法です。
CPM分析の手順を、簡単に解説します。
- 分析したい期間の顧客データを用意する。
- 顧客を分類するための目安を決める。
例)優良顧客と判定する購入金額や期間の目安など - 購入回数と金額・利用期間によって、顧客を5つのグループに分類する。
《5つの顧客グループ例》
- 新規客:初めて自社商品の購入やサービスの利用をした顧客
- 育成客:2回以上の購入・利用履歴がある顧客
- 継続客:購入・利用金額は多くないが、リピートしている顧客
- 流行客:期間は短くても多額の購入・利用履歴がある顧客
- 優良客:長期にわたる高額購入・利用履歴のある顧客
- 各グループを現役客と離脱客で分け、10グループにする。
上の順で分類した顧客をまとめたのが、下の表です。
現役顧客 | 離脱顧客 | |
---|---|---|
新規客 |
新規客×現役客
商品・サービスを一度購入している顧客
|
新規客×離脱客
商品・サービスを一度購入したが、再購入がない顧客
|
育成客 |
育成客×現役客
利用期間は短いが、リピート購入している顧客
|
育成客×離脱客
数回リピート購入したものの、短期間で止まった顧客
|
継続客 |
継続客×現役客
リピーターではあるものの、購入金額は多くはない顧客
|
継続客×離脱客
一定期間、リピート購入していたが、購入しなくなった顧客
|
流行客 |
流行客×現役客
短い期間において、購入・利用金額が多い顧客
|
流行客×離脱客
購入・利用金額が一時的に高かったものの、購入しなくなった顧客
|
優良客 |
優良客×現役客
長期にわたって高額購入を続けている顧客
|
優良客×離脱客
長い期間、高額購入を続けていたが、購入しなくなった顧客
|
例えばこの表の「育成客×現役客」は、「育成現役客」と呼び、継続的に購入しているが利用期間が短い顧客です。なお、ロイヤルカスタマーは、長期にわたって高額購入を続けているため「優良現役客」にあたります。
CPM分析で顧客の状況を把握すれば、「優良現役客」を増やす施策を講じる際に活用できます。以下は、CPM分析をもとにした施策の例です。
- 「新規離脱客」の再購入を促し「育成現役客」にするためにクーポンを配信する。
- 「継続現役客」に品質が高い商品をアプローチし、「優良現役客」に育成する。
- 「継続離脱客」「優良離脱客」が離脱した原因を分析し、商品・サービスの改善に生かす。
このように、顧客のグループに適した施策をおこなえば、ロイヤルカスタマー育成が効率的に進められるでしょう。
分析手法その4:LTV分析
「LTV」とは、顧客が自社との取引を開始してから終了するまでの期間に、どれだけの利益をもたらすのかを表す数値です。LTVは「Life Time Value」の略で、顧客生涯価値と訳されます。
LTVを算出する方法は複数あり、目的によって使い分ける必要があります。以下は、顧客一人あたりの収益をもとにLTVを計算する方法です。
ロイヤルカスタマーは、継続的に自社を利用するためLTVが高くなる傾向があります。
そのため、顧客のLTVを継続的に測定すれば、ロイヤルカスタマー戦略の効果や進捗の具合が把握できるでしょう。
ただし、LTVの数値が高い顧客が、必ずロイヤルカスタマーであるとは限りません。惰性で利用している顧客が含まれる場合もあるため、他の分析手法も併用して見極めましょう。
分析手法その5:顧客満足度分析
「顧客満足度(Customer Satisfaction)」とは、商品やサービスに対する満足度を示す指標です。「Customer Satisfaction」を略してCSと表記される場合もあります。
顧客満足度分析をおこなうには、まず顧客に対して5段階または10段階評価のアンケート調査をします。アンケートの項目は次の2点です。
- 購入前に持っていた、商品やサービスに対する期待値
- 商品やサービスの購入後に実感した価値
顧客満足度を算出する計算式は複数ありますが、今回取り上げるのは「JCSI」と呼ばれる指標の計算式です。
数値化した顧客満足度は、縦軸を満足度、横軸を重視度などに設定したポートフォリオ形式のグラフにまとめて分析します。
顧客満足度を向上させ、自社ブランドに対する愛着心を持った顧客を増やし、1人でも多くのロイヤルカスタマーを育成しましょう。
ロイヤルカスタマーを育成する4つの手順
ロイヤルカスタマーの育成には、大きく分けて4つの手順があります。
- ロイヤルカスタマーの選定基準を決める
- 顧客の育成シナリオを設計する
- 施策を実行するための準備を整える
- 施策の実行と効果検証を継続的におこなう
ここでは、それぞれの手順について解説します。
ロイヤルカスタマー育成の手順1:ロイヤルカスタマーの選定基準を決める
ロイヤルカスタマーを育成する際は「どのような顧客層がロイヤルカスタマーか」を明確にしましょう。
顧客層の選定にはNPS調査で得られた、顧客ロイヤルティの数値が役立ちます。
顧客の何割をロイヤルカスタマーにするのかなど、具体的なゴールを設定しておくことも大切です。
ロイヤルカスタマー育成の手順2:顧客の育成シナリオを設計する
選定基準をもとにターゲットを設定し、育成に向けたシナリオを作成しましょう。
この際、「なぜ顧客が自社に対して、価値や魅力を感じているのか」「どのような属性を持つ顧客がロイヤルカスタマーになりやすいのか」などの仮説を立てましょう。事前にアンケートで自社に対する評価を集めておくと、仮説を立てる際に役立ちます。
この仮説をもとに、育成シナリオを設計します。育成シナリオは、顧客グループに合わせて複数設定しましょう。
- 新規顧客をロイヤルカスタマーにする場合
- 優良顧客をロイヤルカスタマーにする場合
- 既存のロイヤルカスタマーを維持する場合 など
このように、顧客グループに合わせた育成シナリオを用意すると、効果が高いアプローチを計画しやすくなります。
NPS調査の数値が少ない顧客にも対策が必要
NPS調査の数値が少ない顧客は、ロイヤルカスタマーになるまでの道のりが長いとされています。原因はさまざまですが、一因は顧客との接触頻度が少ないことです。
しかし、現状NPSが低かったとしても、顧客に合ったアプローチ方法で接触頻度を上げれば、将来的なロイヤルカスタマーに育成できるでしょう。まずは、カスタマージャーニーマップを作成して接触のタイミングを図り、メルマガやダイレクトメール、アプリなどを使った積極的な情報発信などで、接触頻度を高めましょう。
ロイヤルカスタマー育成の手順3:施策を実行するための準備を整える
ロイヤルカスタマー育成のシナリオが決まったら、施策を実行するために組織体制を整えましょう。担当者の選定や組織の構築をおこない、最適な人材をバランスよく配置します。
施策を実行するためにはツールの導入も効果的です。
マーケティング活動を自動化するMA(マーケティングオートメーション)や、顧客情報の管理がおこなえるCRM(カスタマー リレーションシップ マネジメント)などが、ロイヤルカスタマー育成に役立ちます。
ロイヤルカスタマー育成の手順4:施策の実行と効果検証を継続的におこなう
施策は一度実行して終わらせず、継続的に実行と効果検証を繰り返し、育成シナリオを見直して精度を高めましょう。
ロイヤルカスタマーの育成では、顧客の期待値を超える体験を提供して、顧客満足度を向上させることがポイントです。
顧客にとって自社での体験が期待通りだった場合、顧客を維持することはできても、大きな感動を与えるまでにはいたりません。ロイヤルカスタマーに育成するためには、顧客が想像する以上の魅力的な顧客体験を提供しましょう。そのためには、継続的に顧客満足度を計測しながら、育成方法を改善する必要があります。
まとめ:ロイヤルカスタマー戦略を成功させよう
- ロイヤルカスタマーは継続的な収益を見込める貴重な顧客である。
- ロイヤルカスタマーと優良顧客の違いは、企業への好意や信頼の有無である。
- ロイヤルカスタマーは手順を踏んで育成する必要がある。
ロイヤルカスタマーとは、優良顧客の条件を兼ね備えた上で、企業や商品に対して愛着心と信頼を寄せてくれる存在です。ロイヤルカスタマーを育成すると、新規顧客を開拓するよりもコストを低く抑えられるだけではなく、彼ら自身が自社の広告塔となってくれるメリットもあります。
育成時は、ロイヤルカスタマー戦略に役立つ5つの分析手法と、定性データ分析などを組み合わせて活用しましょう。選定基準を決め、育成シナリオを作成し、準備した施策を実行して効果を検証するという手順を踏めば、効率的にロイヤルカスタマーを育成できます。
時間はかかりますが、根気よく取り組み、自社のファンであるロイヤルカスタマーを増やしていきましょう。