【事業の需要分析に有効】TAM・SAM・SOMの計算方法と活用例を解説
新規事業を立ち上げる際、事業の需要を分析するのに役立つのが「TAM・SAM・SOM」の指標です。しかし「TAM・SAM・SOMの計算方法がわからない」「計算結果をどうビジネスに生かすのかイメージが湧かない」という方も多いのではないでしょうか。
TAM・SAM・SOMへの理解度を深めると、市場の可能性を把握でき、新規事業に対する現実的なマーケティング戦略を打ち出しやすくなります。
今回はTAM・SAM・SOMの代表的な計算方法と、指標の活用例を解説します。TAM・SAM・SOMを使って事業の需要や成長可能性を予測したい方、指標の活用例を知りたい方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
TAM・SAM・SOMの指標と計算式
TAM・SAM・SOMとは、新規事業の立ち上げや自社事業の市場シェアを見極める際に役立つ指標です。3つの指標は、いずれも「自社の事業が獲得できる市場規模」を表しています。
ここでではまず、TAM・SAM・SOMの意味と、それぞれを算出する計算式を解説します。
- TAM(Total Addressable Market):自社が位置する業界全体の最大市場規模
- SAM(Serviceable Available Market):自社がサービス提供可能であり、顧客としてアプローチ可能な市場規模
- SOM(Serviceable Obtainable Market):自社の顧客として獲得できる市場規模(≒売上目標になりうる指標)
分類 | 定義 | 計算式 |
TAM | 自社が位置する業界全体の最大市場規模 | 市場全体の顧客数 × 客単価 × 年間の購入回数 |
SAM | 自社がサービス提供可能であり、顧客としてアプローチ可能な市場規模 | 自社に興味を持つ顧客数 × 支払検討している金額 |
SOM | 自社の顧客として獲得できる市場規模(≒売上目標になりうる指標) | 既存顧客 × 支払予定の金額 |
TAM・SAM・SOMの代表的な計算方法
TAM・SAM・SOMの代表的な計算方法には、以下の2つがあります。
- トップダウン分析
- ボトムアップ分析
それぞれの計算方法を理解して、自社事業の需要予測に役立てましょう。
計算方法その1:トップダウン分析
トップダウン分析とは、全体の市場から自社のターゲットではない市場を除き、マクロな視点で事業の需要を計算する方法です。主にTAMの計算に用いられます。
トップダウン分析の計算は、以下のステップでおこないましょう。
- 政府の統計データや民間企業の調査レポートから全体の市場規模を取得する
- 自社のターゲットではない市場を排除し、特定の地域や顧客層に焦点を当てる
- 絞り込んだ市場に対し、自社の事業で獲得可能な市場規模を計算する
計算に活用できる統計データが存在しない場合は「市場全体の〇%」といった推計でTAMを算出する方法もあります。
トップダウン分析の注意点
トップダウン分析を実施する際は、計算に使用する情報やデータの信頼性を確認することが大切です。何年も前に公開されたデータを使用すると正確な計算結果を得られないため、実用性のある新しいデータを用いて計算しましょう。
また、自社の調査目的と、統計データや調査レポートの整合性が取れていることもポイント。特に、民間企業の調査レポートを使用する場合、企業によってカテゴリ分けや用語の捉え方が異なるケースも多いです。事前に、自社の調査目的に合った調査内容であるかを確認しましょう。
計算方法その2:ボトムアップ分析
ボトムアップ分析とは、顧客ごとのデータを収集し、ミクロな視点で事業の需要を計算する方法です。主にSAMやSOMの計算に用いられます。ボトムアップ分析の計算では、顧客に対するアンケート調査で顧客ニーズを把握した上で、自社が実際に獲得可能な市場規模を算出します。
ボトムアップ分析の注意点
ボトムアップ分析をおこなう際は、アンケートの質問内容を具体化することが大切です。
受け手によって解釈が異なる質問を投げると、分析に役立つデータを取得できません。誰が質問を受けても同じように解釈できるように、質問内容を考えましょう。
質問内容の具体化については、以下の例を参考にしてください。
アンケート内容の具体化の例
「最近はどんなサービスを利用しましたか?」という質問だと、
- “最近”とは、いつを指しているのか
- どのジャンルのサービスを指しているのか
など、質問された人によって違う解釈をする可能性が生まれます。
誰が質問を受けても同じように解釈してもらうためには、
- 「過去1年間で宿泊ホテルを利用したのは、何回ですか?」
- 「過去6ヶ月で何回美容院を利用しましたか?」
などの具体的な質問項目を設定しましょう。
アンケート対象の規模にも注意しよう
アンケート対象者の規模を適切に設定することも、ボトムアップ分析のポイントです。
規模が大きいと調査結果の分析が難しくなるため、まずは小規模な調査から始め、質問内容が対象者に正しく伝わっているか、偏った質問内容になっていないかを確認しながら調整しましょう。
「TAM・SAM・SOM」の指標の活用例
ここではTAM・SAM・SOMの指標の活用方法を、個人経営のカフェと会員制フィットネスクラブを例に挙げて紹介します。
「TAM・SAM・SOM」の計算例その1:個人経営のカフェ
個人経営のカフェを例に、TAM・SAM・SOMそれぞれの指標を求めます。なお、数値は例示するために作成したものであり、実際のデータとは異なる点に留意してください。
個人経営のカフェにおける「TAM」の計算
- 市場全体の顧客数:150万人
- 客単価:1,000円
- 年間の購入回数:12回(顧客の平均来店数:月1回)
このように仮定した場合、以下の計算式でTAMを求められます。
【TAM】
180億円=150万人(市場全体の顧客数)×1,000円(客単価)×12回(年間の購入回数)
この式によって、このカフェが位置する市場全体の規模は、最大180億円相当であるとわかります。
個人経営のカフェにおける「SAM」の計算
- 自社に興味を持つ顧客数:3万7,500人
- 支払検討している金額:1万2,000円(客単価1,000円×12回/年)
上のように仮定すると、次の計算式で個人経営しているカフェのSAMを求められます。
なお「支払検討している金額」とは、顧客1人あたりの年間平均売上を指します。
【SAM】
4億5,000万円=3万7,500人(自社に興味を持つ顧客数)×1万2,000円(支払検討している金額)
これは、前の項で求めた180億円(TAM)のうち、このカフェのアプローチ可能な市場規模が4億5,000万円ぐらいであることを示しています。
個人経営のカフェにおける「SOM」の計算
ここでは、個人経営のカフェを1ヶ月あたり20日間営業して、1日15人の来店があったという前提でSOMを算出します。SOMの計算で使用する既存顧客数を1ヶ月の営業日20日×1日の来店客数15名×12か月=3,600人とします。支払予定の金額は1回あたりの客単価です。
- 年間の既存顧客数:3,600人
- 支払予定の金額:1,000円
【SOM】
360万円=3,600人(既存顧客数)×1,000円(支払予定の金額)
計算の結果、このカフェが1年間の売上目標にできる金額は、360万円程度であると予測できます。
「TAM・SAM・SOM」の計算例その2:会員制フィットネスクラブ
続いて、会員制フィットネスクラブを例にして、TAM・SAM・SOMそれぞれの指標を求めます。なお、こちらの数値も計算例のために作成したものであり、実際のデータとは異なります。
会員制フィットネスクラブにおける「TAM」の計算
- 市場全体の顧客数:200万人
- 客単価:1万5,000円(月額の会員費)
- 年間の購入回数:6回(平均継続率)
このように仮定すると、以下のようにしてTAMを求められます。
【TAM】
1,800億円=200万人(市場全体の顧客数)×1万5,000円(客単価)×6回(年間の購入回数)
この式によって、会員制フィットネスクラブ市場全体の規模は、最大1,800億円相当であるとわかります。
会員制フィットネスクラブにおける「SAM」の計算
- 自社に興味を持つ顧客数:3万人
- 支払検討している金額:9万円(客単価1万5,000円×6回/年)
上のように仮定してSAMを割り出したのが次の式です。
【SAM】
27億円=3万人(自社に興味を持つ顧客数)×9万円(支払検討している金額)
この金額は、前の項で算出した1,800億円(TAM)のうち、このフィットネスクラブのアプローチ可能な市場規模が約27億円であることを示しています。
会員制フィットネスクラブにおける「SOM」の計算
- 1年間の既存顧客数:200人
- 支払予定金額:9万円
上のように仮定してSOMを求めます。
【SOM】
1,800万円=200人(既存顧客数)×9万円(支払予定の金額)
これにより、このフィットネスクラブの1年間における売上目標は、最大1,800万円と予測できるでしょう。
まとめ:「TAM・SAM・SOM」の指標を事業の需要分析に生かそう
- TAM・SAM・SOMとは、自社の事業が獲得できる市場規模を表す指標
- トップダウン分析は、統計データを用いたマクロな視点での需要分析
- ボトムアップ分析は、顧客ひとり単位のデータを用いたミクロな視点での需要分析
TAM・SAM・SOMの指標を使うことで、自社が位置する業界全体の最大市場規模(TAM)の中にある、アプローチ可能な市場規模(SAM)、実際に顧客を獲得可能な市場(SOM)を可視化できます。
代表的な計算方法は2種類あり、マクロな視点でおこなうトップダウン分析はTAMの計算、ミクロな視点でおこなうボトムダウン分析はSAMとSOMの計算に用いられます。
今回の内容を参考にTAM・SAM・SOMの計算方法を理解し、自社の事業における、効果の高い需要分析の実行につなげましょう。