指数平滑法はエクセルで計算できる!計算式の解説・テンプレート配布
需要予測に使われる手法は複数ありますが、指数平滑法はその中でも複雑な計算を用いる手法です。そのため、「需要予測に指数平滑法を使ってみたいが、具体的な計算方法がわからない」「エクセルなどのツールを使って簡単に計算する方法があれば教えてほしい」と思っている方は多いのではないでしょうか。
指数平滑法は需要予測に役立つ計算方法ですが、その方法は1つではなく、通常の計算式やエクセル関数を使った方法があります。今回は、指数平滑法の概要と、エクセル関数を使った計算方法などを解説します。
目次
「指数平滑法」とは過去の予測値と実際のデータから需要を予測する分析手法
「指数平滑法」は、過去の予測値と実際のデータを組み合わせて需要を予測する分析手法です。指数平滑法ではデータ変動の幅が徐々に小さく、滑らかになるため、短期的なデータの変動による影響を抑えた予測をおこなえます。
指数平滑法を需要予測に活用する主なメリットは、在庫管理を最適化し、過剰在庫や欠品を防いで業務効率を向上できることです。一方、予測値に依存しすぎると、実際の需要が予測と大きく異なった場合に混乱を招く可能性があるため、注意しなければなりません。
指数平滑法による需要予測が有効なのはトレンド性の高いデータ
指数平滑法は、過去のデータからトレンドを捉え、将来の動向を予測する際に有効な手法です。特に、季節や時期ごとに変動しやすい時系列データを使った需要予測に適しています。トレンドの移り変わりが激しいケースでも、高い精度で需要を予測しやすい手法です。
ただし、全体的なデータの平均的な推移から需要予測をおこなう場合は、中央移動平均や前方移動平均が有効です。分析内容に合った手法を用いましょう。
指数平滑法を使った需要予測への活用例
指数平滑法は、さまざまな場面の需要予測に活用できます。
例えば飲食店では、過去の月別来客数データをもとに翌月の来客数を予測し、スタッフの配置や食材の仕入れ計画に役立てられるでしょう。小売店であれば、季節商品の売上データやセール・イベント時の急激な需要変化を分析し、適切な発注数を決定する際に指数平滑法を生かせます。
過去データの傾向や特性に適した計算方法を見極め、需要予測に活用しましょう。
指数平滑法の基本的な計算方法
ここでは指数平滑法の計算式と考え方を解説した後、計算例を紹介します。実際に需要予測をおこなうシーンをイメージしながら読み進めてください。
指数平滑法の計算式と考え方
指数平滑法では、過去データのうち、より新しいデータに重みを加えて移動平均を計算します。
基本となる計算式はこちらです。
= α × 前期の実績値 +( 1 – α )× 前期の予測値
指数平滑(α)の値は、予測の際に重視するデータによって、0から1未満に設定しましょう。
- αを1に近づける:新しい実績データをもとにした予測が可能
- αを0に近づける:過去の実績データをもとにした予測が可能
なお、重みとなる指数平滑を低く設定すると、突発的に実績値が変動した際に計算結果に与える影響を抑えられます。
指数平滑法の計算例
指数平滑法の計算式「= α × 前期の実績値 +( 1 – α )× 前期の予測値」を用いた計算例を解説します。
今回例示するのは、とあるスーパーマーケットにおける、2024年5月(前期となるデータ)のワインの販売データです。以下のデータをもとに、指数平滑を0.5とした場合の2024年6月のワイン販売数の需要予測をおこないます。
《2024年5月のワイン販売データ》
- 予測値:111個
- 実績値:120個
指数平滑法で2024年6月のワイン販売個数を予測する際の計算式は、以下のとおりです。
《指数平滑法による2024年6月のワイン販売個数》
0.5 × 120 +( 1 – 0.5 )× 111 = 115.5
上記の結果により、このスーパーマーケットにおける2024年6月のワイン販売数は約115本であると予測できます。(小数点以下切り捨て)
エクセル関数を使った指数平滑法のやり方
指数平滑法の計算は、エクセル関数を使うと便利です。エクセルを使う場合、以下の3ステップでおこないます。
- 分析したい期間のデータを準備する
- FORECAST.ETS関数で将来値を算出する
- 複数期の予測結果をグラフ化する
「FORECAST.ETS関数」は、エクセル2016から追加された新機能です。指数平滑αの値を自由に変更することはできませんが、簡単に指数平滑法による予測値を算出できるため、まずは関数を用いた方法で需要予測に取り組みましょう。
エクセル関数を使った指数平滑法のやり方ステップ1:分析したい期間のデータを準備する
エクセルを使って指数平滑法による計算をおこなうには、まず分析対象とする期間の実績値を準備します。
指数平滑法は時系列ごとのデータを用いて計算するため、年・月・日の時系列で区切ったデータを用意してください。データを入力し終えたら、予測結果を入力する「予測期間」「予測値」のセルをシートの空白部分に作成しましょう。
エクセル関数を使った指数平滑法のやり方ステップ2:FORECAST.ETS関数で将来値を算出する
続いて、FORECAST.ETS関数を使い、指数平滑法による将来値の予測をおこないます。
まず、予測値を表示したいセルに次の関数を入力します。
各値の設定方法については、下表を参考にしてください。
名称 | 内容 |
目標期日 | 値を予測する期日 |
値 | 予測に使う値の範囲 |
タイムライン | 数値データの独立した配列もしくは範囲 |
季節性 | 1を指定または省略すると自動的に計算される。0を指定すると季節性がないとみなされる |
補間 | 1を指定または省略すると欠測値を自動的に補間して計算される。0を指定すると欠測値を0として表示 |
集計 | タイムラインに同じ「期」がある場合の値の集計方法(省略した場合は集計されない) |
なお、「集計」に入力する集計方法は、以下の数値を設定することで反映されます。
- 1:平均(AVERAGE)
- 2:数値の個数(COUNT)
- 3:データの個数(COUNTA)
- 4:最大値(MAX)
- 5:中央値(MEDIAN)
- 6:最小値(MIN)
- 7:合計(SUM)
FORECAST.ETS関数を使った将来値の計算例
画像を例に、2024年1〜6月の月別データをもとに、2024年7月の予測値を求める場合、次のようにおこないます。
- C17に、2024年7月のタイムライン(A10)である「7」を入力する
- 下の関数をC18に入力する
すると、2024年7月の予測値「141.9958」がC18に出力されます。
エクセル関数を使った指数平滑法のやり方ステップ3:複数期の予測結果はグラフ化すると理解しやすい
エクセル関数で需要予測をおこない、複数期の予測結果がシートに表示されている場合は、データをグラフ化すると理解しやすくなります。グラフを作成するには、グラフ化したいデータの範囲を選択し、エクセルのシート上部のタブにある「挿入」からグラフの種類を選びましょう。
まとめ:指数平滑法で最新のデータを重視した需要予測に取り組もう
- 指数平滑法とは、過去の予測値と実績値を組み合わせて移動平均を求める手法
- 基本の計算式は「= α × 前期の実績値 +( 1 – α )× 前期の予測値」で求められる
- エクセルを使う場合は「FORECAST.ETS関数」を使うと簡単に計算できる
指数平滑法では、過去の予測値と最新の実績値を組み合わせ、より新しいデータに重みを加えることで平均値を求めます。指数平滑法は需要予測に役立つ計算方法の一つであり、トレンド性の高いデータの需要予測において特に有効です。
計算において、重みを設定する指数平滑(α)は1に近いほど新しい実績データを、0に近いほど過去の実績データを重視した予測がおこなえます。
エクセルでは「FORECAST.ETS関数」を使うと指数平滑法による将来値を予測できるため、ぜひ取り組んでみてください。今回解説した指数平滑法の概要や計算方法を参考にして、需要を予測したい実績データを集めることから始めてみるのをおすすめします。